僕達の願い 第39話


「シュナイゼルが降伏しただと?まだ戦争は始まったばかりではないか」

まだ日本に接近している段階だというのに、主力部隊である東京方面軍が壊滅したという情報に、一瞬耳を疑った。
まだ上陸したかどうかの時間だから、日本が情報操作をしたと考えるのべきなのだろう。あまりにも幼稚で愚かな手だと呆れてしまう。戦闘が始まり数日たってならわかるが、まだ始まったばかりなのだ。
神聖ブリタニア帝国の最新鋭の兵器相手に日本が降伏したならわかるのだが。
だが、シュナイゼルに連絡を取ろうとしているのだが、どうにも反応がない。
通信の妨害に関しては相手が上なのか、あるいは本当に・・・?

「ふん、もし真実ならば所詮口先だけの能なし男だったと言う事か?まあいい、戦力はこちらが上なのだ、さっさとこの地を攻め落としてくれる。全軍前へ!!」

第一皇女ギネヴィアは、自軍を日本へ向けて進行させた。
シュナイゼルが落ちたならそれはそれで喜ばしい。
次期皇帝の椅子が近づいたという事だから。
もしシュナイゼルとギネヴィアの立場が逆であったなら、シュナイゼルは日本を警戒し、一時撤退していただろう。そして真偽を確かめてから再進行するか決めただろうが、完全に日本を見下しているギネヴィアは、シュナイゼルが臆病風に吹かれてありえないような失態でもしたか、日本軍の情報操作だと疑わなかった。
シュナイゼルが動かしていた主力部隊が、赤子の手をひねるように一瞬で壊滅したなど、想像もしていない。
ここで大きな功績を作り出せば、時期皇帝の座が近づく。それしか頭になかった。
勝利を確信したギネヴィアが口元を歪めた時、目の前に敵軍が現れた。
しかし、1機だけだ。
自軍の進行を塞ぐかのように、空に1機。
ヘリではなさそうだから戦闘機だろうか?
あるいは偵察機か。

「ほう、ようやくお出ましか日本軍」
「敵軍より通信、オープンチャンネルです」

オペレーターの声に、ギネヴィアは面白いと言いたげに顔を歪めた。

「どれ、死にゆく虫けらの話しぐらい聞いてやろう。開け」

ギネヴィアの英霊に従い開かれた通信の画面に姿を現したのは、黒い長髪の青年だった。その青年の顔には、なぜか歓喜に満ちた笑みが浮かんでいる。

『ブリタニアよ、我が天子様がおられる日本に攻め込むと言う事は、中華連邦に弓引くことと同意!』

「中華連邦だと!?」

力強い声音で語られた内容に、ブリッジはざわめいた。
なぜ日本の上空に中華連邦の機体があるのだろう。
最初は戦闘機と思われた機体だが、拡大された映像でそれがKMFである事はすぐにわかった。空を飛ぶKMF。そんなものブリタニアでさえまだ開発していないのに。

『既に日本から共闘の許可は得ている。覚悟しろブリタニアの兵士達!わが神虎の露と消えよ!!』

瞬間、青い光が空を舞った。




「随分と張り切っているね星刻」

スザクはオープンチャンネルから聞こえた星刻の言葉に思わずつぶやいた。
中華の天子と日本の皇。
二人の王の元、同盟の契が成されたのは2年前。そしていずれ来るであろうブリタニアに対し、日本を攻めるなら中華が、中華を攻めるなら日本が救援に向かう事も約束されていた。
天子の傍を離れる事を星刻は断腸の思いで了承し、その日が来るのを今か今かと中華連邦で待っていたのだ。
だからこそ、ブリタニア進行の報を受けすぐさま神虎で駆けつけてきた。何せこれが終われば天子の元にいられるのだ。張り切るのは当然だった。
だが、1時間もかからずに日本上空までやってくるなんて、早すぎないだろうか?

『そりゃ、愛する姫様が見ているからでしょ。私たちもゼロが見てるんだから残党狩り、さっさと終わらせるわよ』
「え?後は任せても大丈夫なんじゃないかな?」

僕達が動くようなこと、もう無いよね?
早く帰りたいとスザクが文句を言った。
シュナイゼルを抑えたことで、もう勝ちは確定している。
ブリタニア側の他の指揮など、脅威でも何でもない。
完全にだらけ始めたスザクに、カレンは『あんたね!』と怒鳴りつけた。

『私たちは一応日本軍の特殊部隊<黒の騎士団>なんだから、最後までやらないと指揮官のゼロが悪く言われるのよ!』

このやり取りの間にシュナイゼルだけではなく、北から攻めてきたギネヴィアも押さえ、南から攻めてきたカリーヌも抑えた。皇族が3人捕虜となった形だ。
護衛として来ていたナイトオブラウンズのドロテアとルキアーノも捕縛済みだ。
ブリタニアからの進行は停止し、後続部隊は撤退済み。
後は本当に戦後処理だけとなっていた。
ブリタニア側の怪我人はいるだろうが、おそらく死者は0だろう。
戦後処理か。
これを戦争と言っていいのだろうか?

ゲームで言うなら、こちら側は強くてニューゲームで一度クリアしたゲームをやり始め、最強装備と最強メンバーを揃えて時間ぎりぎりまで鍛え上げ、万全の態勢で挑んだわけだから、戦力差は歴然。結果は解りきっていた。
とはいえここまで無傷となると、ちょっとブリタニアが可哀そうに思える。

「解ってるよ・・・って、あれ?そう言えば、ゼロの指示ってさっから無い気がするんだけど・・・」

ふと、あの声を暫く聞いていない事を思い出した。

『・・・そう言えば無いわね』

戦略など、これだけの戦術差があれば意味は無いな。と言って以来、音沙汰なしだ。何だろう、いやな予感しかしない。

『ゼロ応答願います。こちら紅蓮』

カレンはすぐに回線を開き、ゼロに呼びかけた。

『どしました?残党狩りは終わりましたの?』

だが、カレンの呼びかけに出たのはカグヤだった。
どうしてゼロへの呼びかけに彼女が出るのだろう。
嫌な汗が二人の頬をツッ・・・と流れた。

『カグヤ様、ゼロは!?』
「カグヤ、ゼロはどうしたの!?」

二人はほぼ同時にそう尋ねた。
その問いに、カグヤは不思議そうに応えた。

『作戦中に決まっていますわ?』
『「作戦!?」』

何それ!
ゼロが動く話なんて聞いてない!

『なに?何の話!?』
「どんな作戦!?カグヤ!!」
『え?まさか、知らないのですか?』
『「知らない!!!」』

カグヤが話した作戦。
それは手薄となったブリタニア皇宮に、ゼロがガウェインで攻め込むというものだった。



南の部隊は、玉城たちが行ったんじゃないかな。

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